ア トラス実験と素粒子物理学 竹下徹(信州大学理学部)
 い よいよ迎えた2011年、アトラス実験は予定通り、昨年2010年の100倍の衝突事象をとらえました。というかLHC加速器が100倍性能があがったと いうべきでしょうか。加速器は複雑な電子機器の集合体で、調整により性能が大きく変化します。また最大性能を引き出すチューニングは大切な仕事で、これの 成果いかんで加速器の寿命さえ決まります。今回CERNの加速器屋さん達の仕事は見事なもので、1年以内に複雑系を理解しほぼ達成可能と考えられている設 計通りの衝突頻度を作り出しました。「ぱちぱち」の拍手のもです。その衝突を受けて私たち物理屋は衝突減少の測定器による記録と、そのデータの解析によ り、奥に潜む高エネルギー素粒子反応を一つ一つ明らかにしていきます。従って私たちの仕事は今や測定器を企画開発から、測定器の安定的稼働とデータ解析に 重点が移っています。
昨年2010年の解析結果を一言でまとめると、今までの約50年間に素粒子物理学で見つかった粒子を1年で再発見したと言えるかもしてません。陽子陽子衝 突では衝突の起こるエネルギーは一定ではなく大小いろいろあります。実際には確率が大きい小さなエネルギー反応がほとんど全部で、これらは過去50年の実 験で既に探索されたエネルギー領域です。それらをたった1年でLHC加速器による実験はほぼ制覇しました。
2011年の最大の発見標的はHIggs粒子でした。もともとLHCの建設とそこでの実験目的とされている粒子です。しかしHiggs粒子の探索は、陽子 陽子衝突実験では簡単ではありません。なぜなら質量の大きな粒子と強く結合する粒子がヒッグス粒子で、質量が多きことは大きなエネルギーが必要だからで す。LHCでは大きなエネルギーの衝突減少の発生確率は極端に小さいからです。
2011年には、ヒッグス粒子の探索の結果、存在しないと考えられる質量領域をどんどん広げました。そして狭い領域しか残らないところまで追いつめまし た。さらにその残った領域に、それらしき事象群を確認しました。しかし統計学的には粒子の発見と呼ぶにはまだ不十分な量です。ただATLASとCMSとい う2つの独立な実験グループが同じ質量領域に通常の事象数より高まりを持っており、ひょっとする本当かもしれません。いずれにせよ来年には統計学的に十分 な事象数を集めることができると考えています。

ヒッグス粒子の特異性について述べます
(1)我々の理解する素粒子世界の説明理論で唯一未発見である
(2)ヒッグス粒子は素粒子質量の根源である
(3)質量とは宇宙の進化の過程で生まれたことの証明となるのがヒッグス粒子である
(4)弱い力がとても弱いことを示すのは、弱い力を伝える粒子の質量がとても大きいためで、これを体現するのがヒッグス粒子である
(5)宇宙の進化のある段階で相転移があったこと示すのがヒッグス粒子である
(6)ヒッグス粒子が何種あるのかいかんで、宇宙の理解が大きく違ってくる
(7)ヒッグス粒子が2つ以上見つかるなら未発見粒子が20個以上あるはずである
(8)暗黒物質の候補は今まで発見された粒子にはない、ヒッグス粒子の数が2個以上なら未発見粒子のなかに暗黒物質の候補がある

-----ここ以下は昨年の文:
 めざして、今2011年初 めーどうなるのか,そしてその先へ
                竹下徹(信州大学理学部)

  素粒子物理学のめざすものは、究極において我々の体や宇宙がなに(基本粒子)からできていて、さらにそれらの間にどのようなやりとり(相互作用)があ るかを解明することです。
  そのために、顕微鏡を使い小さな世界を覗き細胞を発見し、その構造からDNAに至り生物学が発展しました。DNAを構成する原子分子の研究は化学とな り、原子中の核の存在証明(約100年前のRutheford ら)から原子核物理学が生まれました。核の中を研究する過程でクオークを発見しました。今ではこのクオークと電子の一族が究極の基本粒子と考えられていま す。
  この方法はものを衝突させることによりもし内部構造があるならその構造を反映した衝突現象が起きるという事用いています。衝突に用いられるエネルギー が高い(大きい)ほど内部の細かい情報を得ることができます。このサイズのことをコンプトン波長と呼びます。  分子分母にc(光速)を掛けて分母のmc2をアインシュタインの式で読み替えるとエネルギーとなります。このコンプトン波長は対象とする実態の大きさあ るいはサイズに対応します。従ってこの式から分母のエネルギーを大きくすると小さな世界が見えて来る構図となります。(分子はプランク定数と光速の積で定 数です)これが素粒子物理学が「高エネルギー物理学」とも呼ばれるゆえんです。
  さてこの方法のためには高いエネルギー状態の粒子を作る装置が必要です。それが加速器と呼ばれています。顕微鏡で光の波長程度まで見ることができまし たが、より小さなものはコンプトン波長を短くして、電子顕微鏡などでみることができます。さらに小さいものを見る道具が粒子加速器です。その歴史を次の ページに図で示します。粒子加速器は1950年頃から急速に進化しました。現在世界最高エネルギーの粒子加速器はジュネーブ市(スイス)郊外の CERN研究所のLHC(Large Hadron Collider)です。直径9km(円周27km)の巨大なトンネルで地下100mにトンネルを掘り設置されています。陽子と陽子を反対方向に回転さ せ、高いエネルギーで正面衝突を行わせます。そのエネルギーは陽子の質量が約1GeV(実は938MeV=0.938GeV) としてその7000倍の7000GeV=7TeV です。換算上この衝突で7000個の陽子を新たに作り出す事が可能なエネルギーといえます。

上は陽子を加速する加速器のグラフ、横軸は完成年度、縦軸は陽子のエネルギーGeV 単位。図中の赤のポイントは陽子を加速器の外に引き出して標的と衝突させる型の加速器。緑の点は加速機内で反対方向に陽子あるいは反陽子を回転させ正面衝 突させる型の衝突型加速器。

素粒子標準理論 (実験家が考える)
クオークと電子族(レプトン)を基本粒子(点状で内部構造がない究極の存在)とする素粒子の標準理論を説明します。
クオークはアップ・クオークとダウン・クオークからできたいます、この二つのクオークは親戚でSU(2)という群を作ります。つまり2つで一つの属性をも ち、実は2つから成り立っているという物体です。SU(2)の2つを分ける自由度アイソスピン1/2のアップとダウンによってその名前が付けられました。 質量も少々異なります。電荷とアイソスピンは関係があります。従って違いはその電荷として見えます。アップの電荷は電子の電荷の(ー2/3)倍、ダウンの 電荷は電子の(+1/3)倍です。その差は電子の電荷相当です。
同様に電子もSU(2)のペアがいます。それは電子ニュートリノです。ちなみに電子ニュートリノの電荷はゼロです、その差はやはり電子相当です。

これらSU(2)のペア(ダブレットととも呼びます)の間の相互作用が弱い相互作用理論です。対称性はもう一つあり、電磁気学の範疇でこれはU(1)対称 性に従います。従って本当は SU(2) x U(1) という対称性にクオーク・レプトンの電磁力と弱い力が支配されます。これは標準理論の半分を形成します。相互作用は粒子が媒介(つなげる)とい うのがゲージ理論であり、標準理論もゲージ理論です。この弱い相互作用を媒介するのが、WとZ粒子(あるいはボゾンとも呼ばれます)です。ちなみにW粒子 は電荷がプラスとマイナスのものが存在します(絶対値は電子の電荷です)。Zは電荷が有りません、つまり電荷ゼロです。アップ・クオークがダウン・クオー クに化ける(これが相互作用)時にはW+粒子を放出します。これが弱い相互作用です。ダウン・クオークがアップ・クオークに化けることも可能です、このと きはWー粒子を放出します。これをファインマン図で描くと、次の図となります。ここで時間は下から上向きに走ります。ここらで電磁相互作用(光子の媒介) は取り上げません。
ファインマンはこの図により相互作用を視覚的に表すばかりでなく、その確率を計算する方法を編み出しました。

クオーク属のアイソスピンの異なる上下の入れ代わりが可能です。同様に電子属にもこれが起こります。ファインマンダイアグラムでは次の図で表されます。

すなわち電子ニュートリノが電子に化けこのときW+ ボソンを放出する(図左)、また電子がニュートリノに化け、このときW-ボソンを放出します。

さて相互作用は、放出した粒子をほかの粒子が吸収することによって起こります。これがゲージ理論でいう相互作用です。つまり時空に一点で粒子3個の集まる 点ができます。
例えば、中性子に崩壊は(中性子が陽子と電子と反電子ニュートリノに崩壊します)次のファインマンダイアグラムで表されます。
中性子は3つのクオークで形成されていますが、この崩壊過程に関与するのは ただ一つのクオークでdクオークがuクオークに化け、電子と反電子ニュートリ ノに化けます。
  反粒子はファインマンダイアグラムでは時間と逆行する粒子として表されます。下から上へ走るラインが通常の粒子で、逆に上から下へ走る線が反粒子とな ります。
このようにして反粒子の存在も簡単にかつ自然に導入されます。反粒子は通常の粒子の電荷が逆符号で有ることや、質量が同じであることは容易に理解されるで しょう。
相互作用の確率は、中性子の崩壊の場合間を飛ぶW-ボソンの質量の逆数に比例します。(正確には(初期状態の持っているエネルギー=/s)2-(Wボソン の質量)2の逆数です。これを式にしておくと、相互作用確率
となります。ここでWボソンの質量が大きい場合、この過程の起こる確率が小さいことがわかります。実際、中性子の真空中での寿命(この崩壊過程の起こる確 率の逆数)は15分と大変長く安定です。
初期状態の持つエネルギーの自乗をsと書きましたが、この値を大きくすると事情は変わってきます。sがWボソンの質量の2乗に近づくととてつもなく大きく なります。右辺は確率ですから1を超えることはできません。少々問題がある進め方ですが、とにかく、sを大きくすることができればこの過程を容易に見るこ とができることがわかります。
加速器を使って粒子のエネルギーを大きくする作業はこのsを大きくすることです。sは2つの衝突する粒子の4元運動量の和の2乗で定義される量です。相対 性理論で使われる標識である4元ベクトル表示を用いました。そこでは通常の空間3次元の運動量と時間成分であるエネルギーを代4成分として取り入れた4つ のスカラー量からなるベクトルです。内積が少々面倒です。

衝突型加速器では同じ質量の粒子同士を同じ運動量で方向の反対の2つの粒子を正面衝突させますから、p1x=p2x=p1y=p2y=0,p1z=- p2z,E1=E2=Eとなり、このとき、

, sは加速器の中を走る粒子(ビーム)のエネルギー(E)の自乗の4倍となります。sは実はエネルギーの自乗の単位をもつ妙な量です。ともあれビームエネル ギーを増せば、sが大きくなり、sをWボソン質量にできれば弱い相互作用の確率を大きくすることができます。
実際CERN-SPSはこれを実現しWボソンを生成しその崩壊(電子と反電子ニュートリノ)を観測してノーベル賞を得ました。1984年の出来事です。


標準理論の物質構成
クオークとレプトンが物質の究極基本粒子であると書きました。物質の究極の構造を追い求めて来た成果です。
それもアック・クオークとダウン・クオークと電子と電子ニュートリノの4つではこの多様な世界を再現できません。実は加速器の発達に伴いクオークもレプ トンも3つのペア(ダブレット)が発見されています。従って基本粒子は反粒子を数えない時に12個もあります。次にそれを図にしてみます。
この図の横軸は1,2,3とふってありますが、これを(理由はわからないが、存在 は認められるので)世代 (generation) と呼んでいます。第一世代がu(up;アップ),d(down:ダウン)クオークと電子、電子ニュートリノの4粒子からなります。右へ行くと第二世代でc (charm: チャーム),s(strange:ストレンジ)クオークとミュー粒子、ミュー粒子ニュートリノの4つ、さらに右へ行って第三世代が t(top:トッ プ),b(bottom:ボトム)クオークとτ粒子とτニュートリノです。これらの質量は次の図に示しますが、6桁も異 なるものです。(ニュートリノの質量はまだわかっていません、このため下方向に矢印を引いています)
これら基本粒子の数が少ないことが多様性をもたらしていることは事実ですが、世界を複雑にしていることでもあります。さらにこれらの組み合わせが多様性 をさらに増しています。実はクオークは我々の世界に単体で現れることはありません。この理論が標準理論のもう半分を形成する強い力の世界である、色の世界 (量子色力学)です。このゲージ群は SU(3)からできています。従って主要な数が3となります。(3世代の3とは偶然の一致あるいは、我々の知らない 裏が有るかもしれませんが、今は理由不明です)この3がクオークの電荷が電子の1/3,2/3を作り出すと言っても間違いではないでしょう。
すなわちクオークは「色」という自由度を持ちます。色には3種類有ります、通常これをRGB(Red,Green,Blue)と表します。我々の目に写る 通常の色のことではなく、変数としての自由度を表しています。SU(2) でアイソスピンという内部自由度によりu,dをわけました。このSU(3)の色の世界ではu(R),u(G),u(B)という3種類が存在するという風に 考えます。そしてこの色のやりとりが強い相互作用で、色を伝える粒子(ゲージボソン)をグルーオンと呼びます。さらに我々のこの世界では無色の粒子のみ見 えるとします。この取り決めに従うなら、許される組み合わせは単純なものから、クオークと反クオークで同じ色のものがあります。次に複雑なものは3つで無 色を作る可能性です。
2つのクオークと反クオークで粒子を作るとスピンはゼロか1になります(ちなみにクオークのスピンは1/2です、スピン1/2の半整数の粒子はフェルミ粒 子と呼ばれ、エネルギーの同一状態を1個しかしめることができないため、物質の最終的安定性を保証します、つまり最低エネルギー状態に安定な状態を実現で きるので、我々の宇宙や体はその安定状態に落ち着いてこれより下のエネルギー状態に落ちずとどまります)。このクオークと反クオークの組み合わせは中間子 群と呼ばれています。有名な中間子にパイ粒子があります。パイ粒子は3種類存在し、それぞれ電荷がプラス1,ゼロ、マイナス1(電子の電荷の倍)です。こ れらをp+、p0、p-と書きます。これをクオークの成分でかくと、p+ =ud, p0=uu+dd、p-=ud,となります。本当はこれに色の自由度をつけて書くべきです。p+ =uRdR+uGdG+uBdB とかくべきです。
3つのクオークで作られる粒子はスピンが1/2か3/2になります。これらをバリオンと呼びます。これらは陽子や中性子の仲間です。例えば陽子p (proton) と中性子n (neutron)はそれぞれ, p=uud,n=uddと書かれます。ここでも色を考えると、p=uRuGdB+uRuBdG+uGuRdB+uGuBdR+uBuGdR+uBuRdG +uRuGdB+uRuBdG+uGuRdB+uGuBdR+uBuGdR+uBuRdG
などと書かれます。これを図にするとこんなイメージとなります。

クオーク間をつなバネのような線はグルーオンでファインマンダイアグラムの力を伝える(媒介する)粒子 を静的に描いたものです。ちゃんとしたファイン マン図にすると、このようになります。色を含めてまじめに描きまし た。通常は次の絵のように色を無視することが多い。この絵でも色は一意できではなく、 別の多くの組み合わせが存在します。 中間子も陽子もグルーオンがクオークの間を行き来して力を伝えます、あるいはクオーク同士を結びつけています。このグルーオンの働きは少々奇妙です。それ はクオーク同士の距離が近い(短い)ときは力は弱い、一方クオーク同士の距離が大きくなると、力が強くなり、あたかもバネのような振る舞いをします。いよ いよ強く引っ張られとグルーオンは切れて新しいクオークと反クオークのペアを作り、中間子となり現れます。
この図の場合エネルギーが増えた陽子がパイゼロを生成したこと を表します。(ここには描いていないが、もちろん左uクオークと次のuクオークの間にはい つもグルーオンのやりとりで陽子の存在を保っています。)


標準理論での基本粒子について述べてきましたが、力を伝える粒子(ゲージボソン:スピン1)も基本粒子です。これをまとめると次の図のように表されます。


標準理論の中でまだ一つ未発見粒子があります。それはヒッグス粒子と呼ばれています。実はゲージ理論では、対称性が厳密に成り立っているときは、力を伝え る粒子の質量はゼロでなければなりません。しかしW,Zボソンは重い、これは SU(2)xU(1) 対称性が壊れているからだとします。この壊れをもたらし、壊れた事 により粒子が出現します。それがヒッグス粒子です。このためヒッグス粒子は質量をもたらすものと呼ばれています。ヒッグス粒子のスピンはゼロです。すべて のクオークとすべてのレプトン、さらにすべてのゲージボソンが見つかったにもかかわらず、このヒッグス粒子は現在まで未発見です。
このヒッグス粒子を発見すべく建設されつつあるのがLHC加速器です。LHC加速器はCERN (EUの元にヨーロッパの各国が国際共同で創設した素粒子物理学の拠点で、加速器を作ってきました)のもっとも最近のプロジェクトで建設進行中の陽子と陽 子を衝突させる超伝導の加速器です。CERNはスイス・ジュネーブ市郊外にフランス国境をまたいでいます。2007年に運転開始予定です。LHC加速器の 概要を説明します。 航空写真はそのサイズを表しています。右端にジュネーブ空港の滑走路が見えます。 地下100mに作られるLHC加速器はその断面図でみるとその様子がわかります。そのサイズを推し量れると思います。
地下100mのトンネル内はLEPのころは上記のような様子です。白い電磁石が並んでいます。上下方向に磁場を掛けて水平面内を移動する荷電粒子を曲げま す。LHCでは超伝 導電磁石が代わりに入ります。この超伝導電磁石の鉛直面内の断面は次のようになっています。図 中の二つの穴(ビームパイプ)を紙面に垂直向こう側方向と こちら側方向に陽子が走ります。磁場は上 下方向にかかります。ビームパイプの中心で8T(テスラ)の磁場を作り出す超伝導電磁石です。まだ完成していないので完成予想図はこんなものです。
二つのビームパイプは一周27kmの数カ所で交差します。その点ではビーム同士の衝突が起こります。これを衝突点といいます。各衝突点には反応粒子測定器 が設置され、陽子と陽子の正面衝突により生じる現象を観測します。その一つがアトラス実験です。
アトラス実験では25ns おきにビーム衝突しそのつど事象が発生します。ア ニメーションで陽子の加速と衝突のイメージを見ること ができます。 その様子はすべてエレクトロニクス化さ れコンピュータに読み込みます。データ処理もすべてこのコンピュータ につながる他のコンピュータを使って行います。例えばヒッグス粒子が生成された事象を衝突点に近い1mくらいの場所で、ビームに乗って見た図が次のもので す。 中心で紙面の後ろと前から紙面に垂直に陽子同士が正面衝突し、ヒッグス粒子とそれに付随した多数の粒子の放出が赤の飛跡(コンピュータによる解析結 果)内側と外側(紫色)で見えます。この図では生成されたヒッグス粒子が二つのbクオークに崩壊し、不安定で高いエネルギーのbクオークは多数の中間子や バリオンとなり中心から飛び散っています、これをジェットと呼びます。ヒッグス粒子からは2つのジェットが、またこれ以外にヒッグス粒子を作り出した残り のクオークがジェットとなって見えています。この事象では測定器全体が見 える状態で表示しています。事象の種類は異なります。

私たちは13年前からこのアトラス実験の創設時からこの実験を準備してきました。
私たちはこの図のビームパイプに串状についた円盤状の色の濃い部分の測定器(ミュー粒子測定装置)を開発、設計、建設してきました。ヒッグス粒子の質量 は不明ですが、重い場合ミュー粒子への崩壊過程は非常に他の過程と区別して特定できるためヒッグス粒子の発見のための重要な過程と考えられています。従っ て重要な測定器部分を任されていますし、完成させねばなりません。現在測定器部品の製作を日本国内ですべて完了し、CERNへ運び込みました。現在は測定 器の型にする備え付け作業が進展中です。
これから装置のテストを行い2008年のビーム衝突により実験が始まりました。当初はブラックホールが作られて、これに地球が飲み込まれるのではなどとい う、誤解や妄想が飛び交いニュースにもなりました。こんな小さなブラックホールは地球を飲みこむ様に大きくなりません。またいままでこれより高いエネル ギーの宇宙線で衝突が大気圏内で多数起きていますが、私たちはこのとおりぴんぴんしてます。ご安心を。さてスタート直後、
事故が起きてしまいました。超伝導電磁石間の接続溶接部が不十分で熱が発生し超伝導が破れ一部電磁石がこわれしまいました。原因の追求と再設定に1年を要 しました。
2009年に再稼働して徐々に衝突して意味のある事象を生成する事が進んできました。これは加速器という複雑な電気機器はたくさんの調整箇所があって、な かなか最適にビームを回すパラメータを見つけられない事に起因します。それでも図のような衝突事象をアトラス測定器で検出しました。atlas2010- vp1-152166-316199.png この事象は陽子と陽子の重心系エネルギー7TeVでの陽子陽子衝突事象の一つで、ATLAS測定器の中心付 近にある荷電粒子の飛跡がたくさん見えています。ま たさらに私たちの作ったミュー粒子測定器もW粒子の崩壊粒子としてのミュー粒子を観測しています。図
2011年は衝突事象が前年の100倍になりそうです。いよいよヒッグス粒子の登場を固唾をのんで待っている状態です。